同じ問題ばかり解く勉強は、わかりやすいけれど弱点もある
資格勉強や数学の勉強では、同じ種類の問題をまとめて解くことがよくあります。たとえば、簿記なら仕訳問題だけを続けて解く。ITパスポートならセキュリティ用語だけをまとめて覚える。FPなら相続の問題だけを続けて解く。数学なら、一次方程式なら一次方程式だけ、面積なら面積だけ、確率なら確率だけを練習する。このような勉強法は、最初に理解しやすいというメリットがあります。
しかし、同じ種類の問題ばかりを続けて解くと、「今はこの解き方を使えばいい」と最初からわかってしまいます。そのため、問題の見分け方をあまり練習しないまま、解き方だけを繰り返すことになります。勉強中はスラスラ解けるので安心しますが、別の問題と混ざったときに「どの解き方を使えばいいのか」がわからなくなることがあります。
RohrerとTaylorの論文「The shuffling of mathematics problems improves learning」では、数学の練習問題の並べ方に注目しています。多くの数学教材では、直前に習った内容に対応する問題がまとまって出る一方、少数の教材では、過去に習った複数の内容を混ぜて出す形式が使われていると説明されています。
「出典: Rohrer, D., & Taylor, K. (2007). The shuffling of mathematics problems improves learning. Instructional Science, 35(6), 481-498.」
論文のポイント|問題を混ぜると1週間後の成績が上がった
この論文では、2つの実験が報告されています。1つ目の実験では、大学生が1種類の数学問題を学び、その後の練習問題を一度にまとめて解く場合と、複数回に分けて解く場合が比較されました。その結果、1週間後のテストでは、練習を分散させた方が成績が高くなりました。
2つ目の実験では、学生が複数種類の問題を学んだあと、問題を種類ごとに固めて解く場合と、ランダムに混ぜて解く場合が比較されました。その結果、1週間後のテストでは、問題を混ぜて練習したグループの成績が大きく上回りました。論文では、どちらの実験でも、標準的な形式よりもシャッフルされた形式が有利だったとまとめられています。
ここで大切なのは、問題数を増やしたわけではないことです。論文では、練習問題の数や練習セットの数を増やさなくても、問題の並べ方を変えるだけで、後のテスト成績が大きく改善したと説明されています。
交互学習とは何か
このように、同じ種類の問題をまとめて解くのではなく、複数の種類の問題を混ぜて練習する方法を、交互学習またはインターリービングと呼びます。
たとえば、数学で考えると、同じ日に「面積の問題だけ」を10問解くのではなく、面積、体積、割合、確率、方程式を少しずつ混ぜて解くような方法です。資格勉強で考えるなら、FPの相続だけを続けるのではなく、相続、保険、税金、年金を少しずつ混ぜる。ITパスポートなら、ネットワーク、セキュリティ、データベース、経営戦略を混ぜる。簿記なら、現金、売掛金、買掛金、固定資産、決算整理の問題を混ぜる。このような勉強法です。
交互学習は、最初は少し難しく感じます。なぜなら、問題ごとに「これは何の問題か」「どの知識を使うべきか」を判断しなければならないからです。しかし、その判断こそが本番で必要な力です。
なぜ混ぜて解くと効果が出るのか
同じ種類の問題をまとめて解くと、解き方の手順を繰り返す練習にはなります。しかし、本番の試験では「これはどの分野の問題です」と教えてもらえるわけではありません。問題文を読んで、どの知識を使うかを自分で判断する必要があります。
混ぜて解く勉強では、毎回「これは相続の問題か、税金の問題か」「これはネットワークの話か、セキュリティの話か」「これは資産の仕訳か、負債の仕訳か」と考えることになります。この見分ける練習が、長期的な理解につながります。
論文でも、似たように見える数学問題では、どの解法が適切かを見分ける訓練が重要になると説明されています。問題の種類を混ぜることで、この見分ける力を鍛えられる可能性があります。
固めて解く勉強のメリットもある
ここで誤解したくないのは、同じ種類の問題をまとめて解く勉強が完全に悪いわけではないということです。初めて学ぶ内容では、まず同じ種類の問題をまとめて解く方がわかりやすいことがあります。
たとえば、簿記で初めて仕訳を学ぶときに、いきなり決算整理や固定資産まで混ぜると混乱します。ITパスポートで初めてネットワークを学ぶときも、まず基本用語をまとめて確認した方が理解しやすいです。FPの税金も、最初は所得税なら所得税だけ、相続なら相続だけを学んだ方が入りやすいです。
つまり、最初は同じ種類で練習し、ある程度わかってきたら混ぜる、という流れが現実的です。最初から全部を混ぜる必要はありません。
勉強中の手応えと本当の定着は違う
交互学習が難しいのは、勉強している最中の手応えが悪くなりやすいことです。同じ種類の問題だけを続けて解くと、だんだん解けるようになって気分がよくなります。「できるようになった」と感じやすいです。
一方、問題を混ぜると、毎回考える必要があります。さっきは税金、次は保険、その次は相続というように切り替えるため、スムーズに解けないこともあります。そのため、勉強中は「自分はまだできていない」と感じやすくなります。
しかし、論文の結果を見ると、混ぜて練習した方が1週間後のテストで強くなる可能性があります。つまり、勉強中に楽に解けることと、あとで本当に解けることは同じではありません。資格勉強でも、「今スラスラ解ける」より「数日後に混ざった問題でも解ける」ことを重視した方がよいです。
資格勉強への応用1|FPは分野を少しずつ混ぜる
FPの勉強では、ライフプラン、保険、金融資産、税金、不動産、相続など、分野が広く分かれています。最初は分野ごとに学ぶ必要がありますが、2周目以降は問題を混ぜるのがおすすめです。
たとえば、相続だけを20問解くのではなく、相続5問、保険5問、税金5問、不動産5問のように混ぜます。あるいは、過去問を年度別に解くことで、自然に分野が混ざります。
FPでは、似たような言葉も多く出てきます。相続税と贈与税、所得税と住民税、生命保険と損害保険、老齢年金と遺族年金などです。これらを別々に覚えるだけでなく、混ざった状態で判断できるようにしておくと、本番で迷いにくくなります。
資格勉強への応用2|簿記は仕訳をランダムに解く
簿記では、同じパターンの仕訳を続けて解くと、その場ではできるようになった気がします。しかし本番では、現金、売掛金、買掛金、手形、固定資産、貸倒れ、決算整理などが混ざって出てきます。
そのため、基礎を覚えたあとは、仕訳問題をランダムに解く練習が大切です。たとえば、今日は売掛金だけ、明日は買掛金だけという練習をしたあと、週末にはすべてを混ぜた仕訳問題を解きます。
簿記で大切なのは、「この問題はどの取引か」を見抜くことです。同じ種類の問題だけを解いていると、取引の見分け方を練習しにくくなります。混ぜて解くことで、問題文から使う勘定科目を判断する力が鍛えられます。
資格勉強への応用3|ITパスポートは用語を分野横断で確認する
ITパスポートは、ストラテジ系、マネジメント系、テクノロジ系に分かれています。用語が多いため、最初は分野ごとに覚える方が進めやすいです。しかし、試験直前まで分野ごとにしか勉強していないと、混ざった問題で迷いやすくなります。
たとえば、セキュリティ、ネットワーク、データベース、システム開発、経営戦略の問題を少しずつ混ぜて解きます。特にITパスポートでは、似た用語を見分ける力が重要です。可用性、完全性、機密性。SaaS、PaaS、IaaS。アジャイル、ウォーターフォール。こうした用語は、単独で覚えるより、混ざった問題の中で判断する方が定着しやすくなります。
資格勉強への応用4|宅建は法律分野を混ぜる
宅建では、宅建業法、権利関係、法令上の制限、税その他などが出題されます。最初は分野別に勉強してよいですが、ある程度進んだら混ぜて解く練習が必要です。
法律系の問題は、似た言い回しや条件が多く出てきます。問題文を読んで「これは宅建業法の話か」「これは民法の話か」「これは建築基準法や都市計画法の話か」を判断する力が大切です。
分野別問題だけを続けていると、最初から分野がわかっている状態で解くことになります。しかし本番では、問題文から自分で判断する必要があります。週に1回は分野横断の問題を解くと、本番に近い練習になります。
資格勉強への応用5|登録販売者は成分を混ぜて確認する
登録販売者の勉強では、成分名、効能、副作用、注意点などを覚える必要があります。最初は胃腸薬なら胃腸薬、風邪薬なら風邪薬、鎮痛薬なら鎮痛薬というように分けて覚える方がわかりやすいです。
しかし、ある程度覚えたら、成分を混ぜて確認することが大切です。たとえば、複数の成分名を見て「これは何に使われる成分か」「注意すべき副作用は何か」「似た成分とどう違うか」を答える練習をします。
登録販売者では、似た名前や似た効能の成分が多いため、単独で覚えたつもりでも、混ざると迷うことがあります。混ぜて確認することで、見分ける力がつきやすくなります。
交互学習の始め方
交互学習は、いきなり難しくしすぎると続きません。最初は小さく始めるのがおすすめです。
たとえば、1日の勉強時間が30分なら、最初の15分は今学んでいる分野を集中して勉強します。残りの15分で、過去に学んだ分野の問題を少し混ぜます。これだけでも交互学習になります。
また、問題集を使う場合は、章末問題だけでなく、総合問題やランダム問題を使います。もし問題集にランダム問題がない場合は、自分で問題番号を選んで混ぜてもよいです。前の章から2問、今の章から3問、さらに前の章から2問、というようにします。
スマホの一問一答アプリを使う場合は、分野別モードだけでなく、ランダム出題モードを使うと交互学習に近くなります。
おすすめの流れ
交互学習を資格勉強に取り入れるなら、次の流れが使いやすいです。
まず、初日は新しい分野を学びます。ここでは同じ種類の問題をまとめて解いてかまいません。次に、翌日は前日の分野を少し復習しながら、新しい分野を学びます。3日目以降は、過去に学んだ分野を少しずつ混ぜます。週末には、1週間で学んだ分野をランダムに解きます。
たとえばITパスポートなら、月曜にセキュリティ、火曜にネットワーク、水曜にデータベースを学びます。木曜以降は、セキュリティ、ネットワーク、データベースを混ぜた問題を解きます。週末には、経営やマネジメントの問題も少し入れます。
このようにすると、新しい内容を学びながら、過去の内容も忘れにくくなります。
交互学習で注意したいこと
交互学習は効果が期待できる方法ですが、使い方には注意が必要です。まず、まったく理解していない段階で混ぜすぎないことです。基礎がない状態で問題を混ぜると、何をしているのかわからなくなり、挫折しやすくなります。
次に、問題を混ぜるだけで復習しないのもよくありません。間違えた問題は、必ず解説を確認し、数日後にもう一度解きます。交互学習は、問題を混ぜて終わりではなく、間違えた部分を戻すことで効果が出やすくなります。
また、勉強中に手応えが悪くても、すぐにやめないことも大切です。混ぜる勉強は負荷が高いので、最初は間違えやすいです。しかし、その負荷が「どの知識を使うか」を判断する練習になります。
交互学習と分散学習を組み合わせる
RohrerとTaylorの論文では、練習問題の並べ方には、分散と混合の2つの要素があると説明されています。標準的な教材では、ある内容を学んだ直後に同じ種類の問題をまとめて解くことが多い一方、シャッフル形式では、問題が複数の練習セットに分散され、さらに異なる種類の問題が混ざります。
資格勉強でも、交互学習と分散学習は相性が良いです。今日学んだ内容を今日だけで終わらせず、明日、3日後、1週間後に少しずつ混ぜて出すようにします。たとえば、今日FPの相続を学んだら、明日は保険を学びつつ相続を2問解きます。3日後に税金を学びつつ、相続と保険を1問ずつ解きます。このようにすると、自然に過去の内容を思い出す機会が増えます。
やってはいけない勉強パターン
避けたいのは、試験直前まで分野別問題だけを解き続けることです。分野別問題は基礎固めには役立ちますが、それだけでは本番のような混ざった問題に慣れにくくなります。
また、「解ける問題だけを続ける」ことも注意が必要です。同じ種類の問題を続けて解くと正解率が上がりやすいため、勉強した満足感は出ます。しかし、数日後に別の分野と混ぜたときに解けなければ、本当の定着とは言えません。
さらに、ランダム問題を解いて間違えたあと、解説を読まずに次へ進むのも避けたいです。交互学習では、間違えた問題こそ重要です。なぜその解き方を選んだのか、なぜ違ったのかを確認することで、見分ける力が育ちます。
まとめ|問題を混ぜると「見分ける力」が育つ
RohrerとTaylorの論文は、数学の練習問題を同じ種類ごとに固めるのではなく、分散させたり混ぜたりすることで、後のテスト成績が高まることを示しました。特に、複数種類の問題を学んだあと、種類ごとに固めて解くより、ランダムに混ぜて解いた方が、1週間後のテストで大きく有利だったと報告されています。
資格勉強に置き換えるなら、最初は分野別に学び、慣れてきたら問題を混ぜることが大切です。FPなら相続、保険、税金を混ぜる。簿記なら仕訳の種類を混ぜる。ITパスポートならセキュリティ、ネットワーク、データベースを混ぜる。宅建なら法律分野を混ぜる。登録販売者なら成分や効能を混ぜる。
同じ種類の問題を続けると、その場では解きやすくなります。しかし、本番で必要なのは「この問題にはどの知識を使うのか」を見分ける力です。交互学習は、その見分ける力を鍛えるための勉強法です。
資格勉強で点数を伸ばしたい人は、分野別の勉強だけで終わらせず、週に何度かは問題を混ぜて解いてみましょう。最初は難しく感じても、それは本番に近い練習をしている証拠です。読む、覚える、解くに加えて、「混ぜて判断する」時間を入れることで、知識はより使える形に変わっていきます。