科学的に見ると、勉強法には効果の差がある
資格勉強をしていると、「どの勉強法が本当に効果的なのか」と迷うことがあります。参考書を読む、ノートにまとめる、線を引く、問題集を解く、暗記カードを使うなど、勉強法はいろいろあります。しかし、どれも同じように効果があるわけではありません。
Dunloskyらの論文「Improving Students’ Learning With Effective Learning Techniques」では、学生の学習を助けるための10種類の学習法を取り上げ、それぞれがどのくらい効果的かを比較しています。この論文では、学習法を「高い効果が期待できるもの」「中程度の効果が期待できるもの」「効果が限定的なもの」に整理しています。
この考え方は、学生だけでなく、大人の資格勉強にも応用できます。FP、簿記、ITパスポート、宅建、登録販売者などの勉強でも、「ただ読む」より「思い出す」「間隔を空けて復習する」方が、知識を定着させやすくなります。
「出典: Dunlosky, J., et al. (2013). Improving Students’ Learning With Effective Learning Techniques: Promising Directions From Cognitive and Educational Psychology. Psychological Science in the Public Interest, 14(1), 4-58.」
効果が高い勉強法1|練習テスト
論文で特に高く評価されている学習法の一つが、練習テストです。これは、本番の試験を受けるという意味だけではなく、自分で問題を解く、暗記カードで答える、過去問を解く、何も見ずに思い出す、といった方法を含みます。Dunloskyらは、練習テストが年齢や能力の違いを超えて効果を示しやすく、さまざまな学習成果に役立つとして高く評価しています。
資格勉強で考えると、「参考書を読んでから問題を解く」のではなく、「少し読んだらすぐ問題を解く」方が効果的です。まだ覚えていない段階で問題を解くのは不安かもしれません。しかし、問題を解くことで、自分が何を覚えていないのかがはっきりします。
たとえばITパスポートなら、セキュリティ用語を読んだあと、すぐに一問一答を解きます。FPなら、相続や保険の制度を読んだあと、過去問を解きます。簿記なら、仕訳の説明を読んだら、実際に仕訳問題を解きます。間違えた問題は、失敗ではなく「次に覚える場所が見つかった」ということです。
練習テストは「思い出す練習」である
練習テストの大事な点は、知識を頭から取り出す練習になることです。参考書を読んでいるときは、「わかった気がする」ことがあります。しかし、問題を見て答えようとすると、意外と思い出せないことがあります。
これは、知識を入れる練習はしていても、取り出す練習が足りていないからです。資格試験では、参考書を読む力ではなく、問題文を読んで答えを選ぶ力が必要です。そのため、日頃から「思い出す練習」をしておくことが大切です。
おすすめは、参考書を閉じて、今読んだ内容を3つだけ思い出す方法です。たとえば「今読んだページの重要語句を3つ言う」「何も見ずに説明してみる」「一問一答を解く」という形です。これだけでも、読みっぱなしの勉強より記憶に残りやすくなります。
効果が高い勉強法2|分散学習
もう一つ、論文で高く評価されているのが分散学習です。分散学習とは、一度に長時間まとめて勉強するのではなく、時間を空けて何度も復習する方法です。Dunloskyらは、分散学習も多くの学習者や課題に効果が広がりやすいとして、高い評価を与えています。
資格勉強では、1日に3時間まとめて勉強して終わりにするより、短時間でも日を分けて復習する方が記憶に残りやすくなります。たとえば、今日覚えた内容を翌日にもう一度見る。3日後に問題を解く。1週間後に間違えた問題だけ見直す。このように、少し間隔を空けて繰り返すことが大切です。
忙しい大人には、分散学習はとても相性が良い方法です。毎日長時間勉強できなくても、10分や15分の復習を積み重ねるだけで、知識は少しずつ残りやすくなります。
一夜漬けより、短い復習を何度も入れる
資格試験の前になると、まとめて一気に勉強したくなります。しかし、一夜漬けのような詰め込み学習は、短期間では何とかなることがあっても、忘れやすいという弱点があります。分散学習では、忘れかけたころにもう一度思い出すため、記憶を戻す練習になります。
たとえば、月曜日に新しい範囲を勉強したら、火曜日に5分だけ見直します。木曜日に同じ範囲の問題を解きます。日曜日に間違えた問題だけ確認します。このような流れにすると、復習の負担は小さいまま、記憶を保ちやすくなります。
大切なのは、復習を完璧にやろうとしないことです。5分だけでも、1問だけでも、暗記カードを3枚だけでもかまいません。忘れる前提で、何度も戻る仕組みを作ることが大切です。
中程度に効果が期待できる勉強法1|理由を考える
論文では、「なぜそうなるのか」を自分に問いかける学習法も取り上げられています。これは、単に用語を覚えるだけでなく、「なぜこの制度があるのか」「なぜこの答えになるのか」と理由を考える方法です。Dunloskyらは、このような方法を中程度の有用性がある学習法として評価しています。
資格勉強では、丸暗記だけでは対応しにくい問題があります。たとえばFPで税金や保険を学ぶとき、「なぜこの制度が必要なのか」と考えると理解しやすくなります。ITパスポートでセキュリティを学ぶときも、「なぜ暗号化が必要なのか」「なぜバックアップが必要なのか」と考えると、単語だけより覚えやすくなります。
この方法は、特に理解が必要な分野に向いています。用語を見たら、「つまり何のためにあるのか」と一言で説明してみるとよいです。
中程度に効果が期待できる勉強法2|自分の言葉で説明する
自分の言葉で説明する勉強法も、資格勉強に使いやすい方法です。参考書の文章をそのまま覚えるのではなく、「これは要するにどういうことか」と言い換えます。
たとえば、ITパスポートの「クラウド」を覚えるなら、「インターネット経由でサービスやデータを使う仕組み」と自分の言葉で説明します。FPの「相続税」なら、「亡くなった人の財産を受け取ったときに関係する税金」と説明します。簿記の「負債」なら、「あとで返さなければいけないもの」と説明します。
自分の言葉にできない内容は、まだ理解が浅い可能性があります。逆に、短く説明できる内容は、記憶にも残りやすくなります。誰かに教えるつもりで説明すると、より効果的です。
中程度に効果が期待できる勉強法3|交互学習
交互学習とは、同じ種類の問題だけを続けて解くのではなく、似た分野や問題を混ぜて練習する方法です。論文では、交互学習も中程度の有用性がある方法として扱われています。ただし、研究の蓄積には限りがあるため、高評価まではされていません。
資格勉強で使うなら、同じ分野だけを延々と解くのではなく、少し混ぜる方法が考えられます。たとえば簿記なら、現金だけの仕訳、売掛金の仕訳、買掛金の仕訳を分けて練習したあと、最後に混ぜて解きます。ITパスポートなら、セキュリティ、ネットワーク、データベースの問題をそれぞれ学んだあと、ランダムに解きます。
交互学習の良いところは、「どの解き方を使うべきか」を判断する練習になることです。本番の試験では、問題がきれいに分野別に並んでいるとは限りません。混ぜて解く練習をしておくと、判断力も鍛えられます。
効果が限定的とされた勉強法1|線を引く
多くの人がやりがちな勉強法に、参考書へ線を引く方法があります。重要そうな部分にマーカーを引くと、勉強した気になります。しかし、Dunloskyらの論文では、線を引く学習法は効果が安定しにくく、低い評価になっています。特に、線を引くだけで終わると、記憶や理解につながりにくいと考えられます。
もちろん、線を引くこと自体が完全に無意味というわけではありません。問題は、線を引いたあとに何もしないことです。線を引いた部分を見て、「ここから問題が出るならどう聞かれるか」「この用語を何も見ずに説明できるか」と確認することが大切です。
マーカーは、記憶するための道具ではなく、あとで思い出す場所を見つけるための目印として使う方がよいです。
効果が限定的とされた勉強法2|読み直し
参考書を何度も読み直す方法も、多くの人が使います。しかし、論文では、読み直しも低い評価になっています。読み直しは、やりやすい反面、「わかった気がする」状態になりやすく、実際に思い出せるかどうかの確認が不足しやすいからです。
読み直しをするなら、ただページを眺めるのではなく、読む前に「前回の内容を何も見ずに思い出す」ことを入れるとよいです。たとえば、2回目に読む前に、前回のページで覚えている用語を3つ書き出します。そのあとで読み直すと、抜けていた部分がはっきりします。
読み直しは、練習テストや白紙再現と組み合わせることで、ただ読むだけより効果的になります。
効果が限定的とされた勉強法3|要約
要約は、一見とても良い勉強法に見えます。実際、文章を短くまとめる力がある人には役立つ場合があります。しかし、論文では、要約は条件によって効果が限られるため、低い評価になっています。
資格勉強では、要約ノートを作ることに時間をかけすぎる人がいます。きれいにまとめたノートができると達成感はありますが、それだけで点数が上がるとは限りません。大切なのは、ノートを作ることではなく、問題を解けるようになることです。
要約を使うなら、長い文章をきれいにまとめるより、「このページのポイントは3つ」「この制度を一言でいうと何か」という形にすると実用的です。短くまとめたあと、必ず問題演習につなげましょう。
効果が限定的とされた勉強法4|語呂合わせやイメージ記憶
語呂合わせやイメージ記憶も、論文では低い評価に分類されています。ただし、これは「まったく使えない」という意味ではありません。語呂合わせやイメージ記憶は、特定の用語や短期間の記憶には役立つ場合がありますが、使える場面が限られるという意味です。
資格勉強では、数字、年号、成分名、法律の期間などを覚えるときに語呂合わせが役立つことがあります。ただし、語呂だけを覚えて意味を理解していないと、少し聞き方が変わった問題に対応しにくくなります。
語呂合わせは、最後に思い出すための補助として使うのがよいです。中心に置くべき勉強法は、やはり問題を解くことと、間隔を空けて復習することです。
資格勉強では「読む」より「解く」を増やす
この論文から資格勉強に活かせる一番大きなポイントは、「読む時間を増やすより、思い出す時間を増やす」ということです。参考書を読むことは必要ですが、読むだけでは不十分です。問題を解く、暗記カードで答える、何も見ずに書き出す、自分の言葉で説明する。こうした作業を入れることで、知識が使える形に変わります。
たとえば、1時間勉強するなら、60分ずっと読むのではなく、30分読む、20分問題を解く、10分間違えた部分を見直すという形にします。さらに翌日、前日の内容を5分だけ復習します。これだけでも、ただ長く読む勉強とはかなり違います。
資格試験で点数につながるのは、「見たことがある知識」ではなく、「問題を見て思い出せる知識」です。
大人の資格勉強におすすめの使い方
仕事や家事で忙しい大人の場合、長時間の勉強を前提にすると続きにくくなります。そこで、練習テストと分散学習を小さく組み合わせるのがおすすめです。
たとえば、平日は15分だけ勉強します。最初の5分で前回の内容を思い出します。次の5分で参考書を読みます。最後の5分で一問一答や過去問を解きます。週末は、平日に間違えた問題だけをまとめて見直します。
この流れなら、短時間でも「読む」「思い出す」「解く」「復習する」が入ります。勉強時間が少なくても、やり方を変えることで効果を高めやすくなります。
やめた方がよい勉強パターン
資格勉強で避けたいのは、参考書を読むだけ、線を引くだけ、ノートをきれいにまとめるだけ、何度も読み直すだけ、という勉強です。これらは、勉強した気分にはなりやすいですが、試験本番で思い出せる力につながりにくいことがあります。
もちろん、参考書を読むことも、線を引くことも、ノートを作ることも、完全に悪いわけではありません。問題は、それだけで終わることです。必ず最後に「何も見ずに思い出す」「問題を解く」「翌日もう一度確認する」という作業を入れましょう。
勉強法を変えるときは、すべてを一気に変える必要はありません。まずは、読み終わったあとに1問解く。翌日に5分復習する。この2つだけでも十分な一歩です。
まとめ|効果が高い勉強法は「テスト」と「間隔を空けた復習」
Dunloskyらの論文では、10種類の学習法が比較され、その中でも特に高く評価されたのは「練習テスト」と「分散学習」でした。一方で、多くの人がよく使う「線を引く」「読み直す」「要約する」などは、効果が限定的とされています。
資格勉強に置き換えるなら、大切なのは、参考書を長く読むことではなく、問題を解いて思い出すことです。そして、一度覚えた内容を、翌日、数日後、1週間後にもう一度復習することです。
おすすめの流れは、参考書を少し読む、すぐ問題を解く、間違えたところを確認する、翌日に短く復習する、数日後にもう一度解く、という形です。これなら、忙しい大人でも取り入れやすく、記憶にも残りやすくなります。
勉強は、長く机に向かえば必ず成果が出るわけではありません。大切なのは、効果の高い方法を選ぶことです。資格勉強で覚えられないと感じている人は、まず「読むだけの勉強」から「思い出す勉強」へ変えてみましょう。練習テストと分散学習を取り入れるだけでも、勉強の手応えは少しずつ変わっていきます。