テストは点数を測るためだけのものではない
資格勉強をしていると、テストや問題演習は「実力を確認するためのもの」と考えがちです。参考書を読んで、ある程度覚えてから問題を解く。試験前になったら過去問を解く。このように考える人は多いと思います。しかし、記憶の研究では、テストにはもう一つ大切な役割があるとされています。それは、テストを受けること自体が記憶を強くするということです。RoedigerとKarpickeの論文「Test-Enhanced Learning」では、記憶テストは知識を評価するだけでなく、あとで思い出す力を高めると説明されています。
この考え方は、資格勉強にとても役立ちます。FP、簿記、ITパスポート、宅建、登録販売者など、どの資格でも「覚えること」は避けられません。しかし、ただ読むだけでは、試験本番で思い出せないことがあります。そこで大切になるのが、早い段階から問題を解き、自分の頭から知識を取り出す練習をすることです。
「出典: Roediger, H. L., & Karpicke, J. D. (2006). Test-Enhanced Learning: Taking Memory Tests Improves Long-Term Retention. Psychological Science, 17(3), 249-255.」
論文のポイント|思い出す練習が長期記憶を強くする
この論文では、学生が文章を学習したあと、再び勉強するグループと、記憶テストを受けるグループを比較しています。最終テストは、5分後、2日後、1週間後に行われました。その結果、5分後のような短い間隔では、繰り返し読んだグループの方がよく思い出せました。しかし、2日後や1週間後のように時間が空いたテストでは、最初にテストを受けたグループの方がよく記憶を保持していました。
ここで重要なのは、テストを受けたグループは、必ずしも答えを教えてもらっていたわけではないという点です。論文では、フィードバックなしの自由再生テストでも、遅れて行われるテストでは効果が見られたとされています。つまり、正解を教えてもらうことだけが大事なのではなく、「自分の頭から思い出そうとする行為」そのものに意味があるということです。
読み直しは短期的には安心するが、長期記憶には弱いことがある
参考書を何度も読み直すと、「わかった」「覚えた」という感覚が出てきます。確かに、読んだ直後なら内容を思い出しやすくなります。しかし、数日後や1週間後になると、読んだはずなのに思い出せないことがあります。
この論文でも、短時間後のテストでは繰り返し学習の方が有利でしたが、時間が空いたあとのテストでは、テストを受けたグループの方が有利になりました。さらに、繰り返し学習は「覚えられそうだ」という自信を高める一方で、長期的な記憶ではテスト練習の方が効果的だったと示されています。
資格勉強でも同じことが起きます。参考書を何度も読んでいると、見慣れた言葉が増えるため、理解したように感じます。しかし、問題文を見たときに答えが出てこなければ、試験では点数につながりません。読み直しだけで安心せず、必ず「何も見ずに思い出す時間」を入れることが大切です。
テスト効果とは何か
この論文で扱われている考え方は、一般に「テスト効果」と呼ばれます。テスト効果とは、学習した内容をあとで思い出すためには、ただ読み直すだけでなく、記憶から取り出す練習をした方が効果的だという考え方です。論文の要旨でも、記憶テストは知識を測るだけでなく、その後の保持を高める現象であると説明されています。
資格勉強に置き換えると、テスト効果は次のような場面で使えます。参考書を閉じて用語を説明する。暗記カードで答える。一問一答を解く。過去問を解く。白紙に覚えていることを書き出す。これらはすべて、自分の頭から知識を取り出す練習です。
つまり、問題演習は「仕上げ」ではありません。むしろ、覚えるための中心的な作業です。
資格勉強では「覚えてから解く」より「解きながら覚える」
多くの人は、参考書をしっかり読んでから問題を解こうとします。しかし、資格勉強では、完全に覚えてから問題を解こうとすると、いつまでも問題演習に入れないことがあります。特に大人の勉強では、仕事や家事で時間が限られています。完璧に覚えてから進めるより、早めに問題を解きながら覚える方が現実的です。
たとえばITパスポートなら、セキュリティの章を読んだら、すぐに数問だけ解きます。FPなら、相続の説明を読んだあとに、すぐ過去問を1問解きます。簿記なら、仕訳の説明を読んだら、実際に仕訳を書いてみます。登録販売者なら、成分名を読んだあと、効能や注意点を自分で言えるか確認します。
間違えることは悪いことではありません。むしろ、間違えた場所は「次に覚えるべき場所」です。問題を解くことで、自分がわかっている部分と、まだ曖昧な部分がはっきりします。
自分で小テストを作る
テスト効果を使うために、特別な教材を用意する必要はありません。自分で小テストを作れば十分です。たとえば、参考書を読んだあとに、見出しだけを見て内容を説明します。重要語句を隠して意味を答えます。ノートの左側に用語、右側に説明を書き、片方を隠して答えます。
ITパスポートなら、「ファイアウォールとは何か」「クラウドとは何か」「可用性とは何か」と自分に質問します。FPなら、「基礎控除とは何か」「贈与税と相続税はどう違うか」と問いかけます。簿記なら、「売掛金は資産か負債か」「商品を掛けで売ったときの仕訳はどうなるか」と確認します。
大切なのは、答えをすぐ見ないことです。数秒でもよいので、自分の頭で思い出そうとする時間を作ります。この「思い出そうとする負荷」が、記憶を強くする練習になります。
白紙に書き出す勉強法はテスト効果と相性が良い
白紙に書き出す方法も、テスト効果を使った勉強法です。やり方は簡単です。参考書を閉じて、覚えている用語や内容を白紙に書き出します。そのあとで参考書を見直し、抜けていた部分を確認します。
たとえば、FPの相続を勉強したあとなら、白紙に「相続税、基礎控除、法定相続人、遺産分割、遺留分、贈与税」など思い出せる言葉を書きます。ITパスポートなら、セキュリティ用語をできるだけ書き出します。簿記なら、勘定科目や仕訳の型を書き出します。
この方法の良いところは、「わかったつもり」を防げることです。参考書を読んでいるときは理解しているように感じても、何も見ずに書こうとすると、思い出せない部分がすぐにわかります。そこを復習すれば、効率よく弱点を減らせます。
暗記カードは「見る道具」ではなく「答える道具」にする
暗記カードを使っている人も多いと思います。ただし、カードをめくって眺めるだけでは効果が弱くなります。暗記カードは、答える道具として使うことが大切です。
表に用語、裏に意味を書く方法でもよいですが、さらに効果を高めたいなら、表に説明、裏に用語を書く方法もおすすめです。たとえば、表に「外部からの不正アクセスを防ぐ仕組み」、裏に「ファイアウォール」と書きます。表に「亡くなった人の財産を受け取ったときに関係する税金」、裏に「相続税」と書きます。
この形にすると、問題文から答えを思い出す練習になります。資格試験では、用語を見て意味を確認するだけでなく、説明を読んで正しい答えを選ぶ力が必要です。暗記カードは、見るためではなく、思い出すために使いましょう。
間違えた問題は「記憶を強くする材料」になる
問題を解くと、当然間違えることがあります。多くの人は、間違えると落ち込みます。しかし、テスト効果の考え方から見ると、間違えた問題はとても大事です。なぜなら、間違えた問題は、自分の記憶が弱い場所を教えてくれるからです。
大切なのは、間違えたあとに放置しないことです。間違えた問題には印をつけます。解説を読みます。翌日もう一度解きます。数日後にもう一度解きます。この流れを作ると、間違いが記憶の定着につながります。
資格勉強では、正解した問題を何度も解くより、間違えた問題を繰り返す方が効率的です。自分専用の弱点リストを作るつもりで、間違いを集めましょう。
答えを見すぎる勉強から卒業する
勉強中にすぐ答えを見てしまう人もいます。わからない問題があると、すぐ解説を確認する。用語が出てこないと、すぐ参考書を開く。このやり方は楽ですが、思い出す練習が不足しやすくなります。
もちろん、長時間悩み続ける必要はありません。しかし、答えを見る前に、少しだけ考える時間を入れることが大切です。たとえば、10秒だけ思い出す。選択肢を消去法で考える。関係しそうな用語を紙に書く。ここまでやってから答えを見ると、記憶に残りやすくなります。
「わからないからすぐ見る」ではなく、「わからないけれど一度思い出そうとする」。この小さな違いが、長期記憶では大きな差になります。
テストは短くてもよい
テスト効果を使うといっても、毎回本格的な模試を解く必要はありません。むしろ、日常の勉強では短いテストで十分です。1問だけ解く。用語を3つ思い出す。昨日の内容を1分で説明する。白紙に見出しだけ書く。このような小さなテストでも、思い出す練習になります。
忙しい大人には、短いテストをこまめに入れる方法が向いています。朝に暗記カードを3枚。昼休みに一問一答を5問。夜に昨日の間違いを1問だけ解く。このくらいなら、無理なく続けやすいです。
勉強時間が少ない人ほど、ただ読む時間を減らし、短いテストを増やすことが大切です。
資格別の使い方
FPの勉強では、制度名を読んだあとに「これは誰のための制度か」「どんな場面で使うか」と自分に質問します。相続、保険、税金、不動産などは、説明を見て制度名を答える練習が向いています。
簿記の勉強では、参考書を読むより、仕訳を手で解くことが大切です。仕訳は、見て覚えるより、何度も書いて思い出す方が身につきます。間違えた仕訳だけを集めて、翌日もう一度解くと効果的です。
ITパスポートの勉強では、用語を説明できるかが重要です。用語を見て意味を確認するだけでなく、「この説明に当てはまる用語は何か」と逆向きに答える練習を入れましょう。
登録販売者の勉強では、成分名、効能、副作用、注意点をカード化すると使いやすいです。表に症状や注意点、裏に成分名を書くと、試験問題に近い形で思い出す練習ができます。
宅建の勉強では、法律用語や期間、条件を自分で説明する練習が大切です。過去問を早めに解き、間違えた選択肢について「なぜ違うのか」を答えられるようにしましょう。
おすすめの勉強ルール
この論文の考え方を資格勉強に使うなら、次のルールがおすすめです。
- 参考書を読んだら、すぐ1問解く。
- 1ページ読んだら、重要語句を3つ思い出す。
- 答えを見る前に、10秒だけ考える。
- 間違えた問題は翌日にもう一度解く。
- 週末は、間違えた問題だけを解き直す。
- 暗記カードは眺めず、必ず答えてから裏を見る。
このルールなら、勉強の中に自然とテスト効果を入れられます。特別な教材や高価な講座がなくても、今ある参考書と問題集だけで始められます。
やってはいけない勉強パターン
避けたいのは、参考書を読むだけで終わる勉強です。読み直しだけ、マーカーを引くだけ、ノートをまとめるだけでは、試験本番で思い出す力が弱くなりやすいです。
また、「全部覚えてから問題を解く」という考え方も注意が必要です。完璧に覚えるまで問題を解かないと、問題演習の時間が不足します。資格試験では、問題を解くこと自体が記憶を作る作業です。
もう一つ注意したいのは、答えをすぐ見ることです。答えを確認することは大切ですが、その前に自分で思い出す時間を入れましょう。たとえ間違えても、その試行が記憶の強化につながります。
まとめ|覚えたいなら、読んだあとにテストする
RoedigerとKarpickeの論文は、テストが単なる評価ではなく、学習そのものを強くする方法であることを示しました。特に、短期的には読み直しが有利に見えることがあっても、2日後や1週間後のように時間が空くと、テストを受けた方が記憶に残りやすいという点が重要です。
資格勉強に活かすなら、読むだけの勉強から、思い出す勉強へ変えることが大切です。参考書を少し読んだら問題を解く。暗記カードで答える。白紙に書き出す。昨日の内容を説明する。間違えた問題を翌日にもう一度解く。こうした小さなテストを勉強の中に入れることで、知識は長く残りやすくなります。
勉強は、ただ長時間読むほど良いわけではありません。大切なのは、頭の中から知識を取り出す練習をすることです。資格勉強で覚えられないと感じている人は、まず今日の勉強から「読んだあとに1問解く」を始めてみましょう。それだけでも、勉強の質は少しずつ変わっていきます。